document

東京を巡る対談 月一更新

成田憲保(天文学者)×平本正宏 対談 未知なる惑星を求めて

<基本原理をもとにした惑星の多様性>

平本 音楽もこれをやればこういう風にできるとか基本的な原理があるんです。その基本原理は学べるし、書籍でも紹介しているものがあるんですけど、その原理を基軸として持っていても作曲家によって1曲1曲のアプローチが全部変わるので、実際に生み出された曲達を見ると基本的に習えるような基本理論や和音の進行の原理と100パーセント合うことはないんです。1個1個の惑星の動きというのが、1つ1つの曲に似ているなと感じました。

成田 原理とかは一緒だけれども、ちょっとした条件で結果が違ってくるということですよね。同じ原理でできてても、音楽の場合はその時の心境によって全然違ってくるんですね。惑星の場合もちょっとした条件で結果が変わってくるので、状況証拠を集めて何があってこうなったんだろうというのを調べていくわけです。ただそういう研究はこれまで巨大惑星についてはできてきたんですけども、小さい惑星はまだターゲットになっていませんでした。そう考えるとハビタブルじゃなくても、小さい惑星がどういう風に軌道が進化して、どういう多様性を持っているのかっていうのはこれからの研究テーマなんです。それは必ずしもハビタブルではないですが、重要な研究です。そういう小さな惑星がどういう風に軌道を変えるのかを明らかにしないと、ハビタブルプラネットがどのようにしてできたのか本当には理解できないんです。決してハビタブルプラネットだけを見れば分かることではなくて、全体を見てやらないと分からないことですね。

平本 全体を見たからこそ、ある惑星がハビタブルであるかが分かるかもしれないですもんね。もし1個1個のメカニズムがあって、それが各惑星の動きに応用されたりして、差があると面白いですね。音楽もそのメカニズムに音を当てはめて、各星ごとにこんな音が出ますみたいなのを作ってみたいですね。そうしたら、この動きをする時は必ずこの音が鳴るけど別の星では音が逆に動いているし、変な楕円を描いているからこんな音になりましたというのができたら、1個1個の惑星の曲みたいのができるかもしれない。

成田さんが研究されている中で接した惑星の中で、一番印象に残った惑星ってどんなものですか?

成田 んー、そうですね。自分が初めてデータをとった逆向きの惑星ですね。なんでこんなのいるの?って。

平本 先程も少し紹介して頂きましたが、なぜその惑星を発見するに至ったのですか?

成田 かなり偶然ですね。その惑星を含めて色々な惑星の向きを測定していたんです。すばる望遠鏡でたくさん観測させてもらってたんですけど、大体10個ぐらいの観測を提案して、8個目ですね、8個目に逆向きの惑星に当たったんです。

平本 その逆向きの惑星というのはどこら辺にあるんですか?

成田 白鳥座の方です。白鳥座なので夏の天体で、2008年5月30日ぐらいに観測をして、夏休みにかけて解析をしたんですね。9月くらいに結果が出たんですが、データを信じるとこれ逆向きなんだけどって。その時はまだ信じられなかったんです。ノイズもちょっとのっているしまだ確信が持てなくて、間違いだと怖いなと思って、共同研究者の方にもう1回観測をしてみたいと話しました。その方はMITの方なんですけど、すばる望遠鏡で同じ惑星の観測時間をとって、次の年の2009年に観測をすると。観測をしたらその人も同じように逆向きだと言うので、これはすぐに論文にしなきゃと思って、すぐ書いて論文にしました。

平本 すごい! このことはそれまでの常識ではあり得ないことなんですか?

成田 それまでの常識では基本的には惑星の公転と親星の自転は同じ方向に回っているというのが常識だったんですけど、常識を覆す結果だったので驚きました。そのデータを自分が最初に見たというのは、研究者として感慨深いですね。何だろうこれは! ってワクワクしました。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10