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東京を巡る対談 月一更新

成田憲保(天文学者)×平本正宏 対談 未知なる惑星を求めて



<生物学とか化学、惑星科学分野との協力>

平本 天文学の観測ですけど、生命の存在を判断するとなると、他分野の専門家達と共に行う。プロジェクトとしてもかなり巨大になってくるのではないでしょうか?

成田 そうですね。今私は太陽系外惑星探索プロジェクト室にいるのですが、国立天文台が所属している自然科学研究機構というところは、基礎生物学研究所や分子科学研究所などいくつかの組織がまとまっているんです。これらの他の研究所に光合成を研究されている専門家がいらっしゃって、そういう方ともコラボレーションをしながら、議論をしています。例えば分子化学研究所の方は人工光合成の専門家の方で、触媒とか光の化学反応でどういったものがあるのか、あとは適切な色素があるのかどうかを調べて下さる。あと基礎科学研究所では実際に光合成をする生物を育てている研究者の方がいらっしゃって、低温度星のハビタブルプラネットの光環境で地球上の生物は光合成出来るかを調べて下さったり。

平本 なるほど。地球で前提とされている植物がそういう環境にも適応できるのかどうか分からないですもんね。

成田 今まで天文学者は酸素があれば生命じゃない? ぐらいのある意味簡単な考えで将来の計画を考えていたんですけれど、いざ今後5年とか10年でハビタブルプラネットが太陽系の近くで発見された時に、本当にそれは生命なの? ということをちゃんと科学としてやらないといけない時代になってきているんです。前は空想を含んだ希望的観測をしていたのですが、今後それを科学としてやっていく為には、ちゃんと天文学者だけじゃない生物学とか化学、惑星科学とか色んな人たちの協力関係が必要になってくる。

平本 それぐらい系外惑星に対してのアプローチが具体的になってきているということですよね。

成田 そうなると、逆に複雑になってきますね。

平本 面白いなと思うのが、生命が生きる条件というのが、かなり複雑だということですよね。それこそ一つの分野に1人の専門家だけでは分からないような要素を持って初めて生命が生きれるかどうか分かるということですから。

成田 そうですね。あと、低温度星の周りのハビタブルプラネットの環境というのは地球と似た環境かというと、全くそうではありません。例えば低温度星というのは基本的には温度が低くて、可視光が弱く、そして赤外線が強い。光合成をしようにも可視光が少ないので、そもそも地球の植物が生育できるかどうか分からない。それに加えて、赤外線が強い状況で光合成できるかどうかも分かっていません。あとはですね、低温度星のハビタブルプラネットは地球と太陽の距離より、だいぶ近くになってしまいます。するとちょっとした効果がでてきます。

平本 どんな効果ですか?

成田 私たちが月を見た時って、大体いつも同じ模様をしていますよね。なぜかというと、月が地球を公転する周期と同じ周期で自転しているから。実は重たい天体の周りを軽い天体が公転していると、軽い天体の自転周期が公転周期と揃ってきてしまって、最終的に軽い天体は重たい天体に対して常に同じ面を向けてしまうんです。それが天体力学、物理の効果で必ず起こってしまうんです。

平本 つまり?

成田 つまりですね、惑星の一方の面がずっと親星の方を向いてしまうわけです。

平本 そうすると、いつも昼という面ができてしまうわけですね。

成田 つまり低温度星の周りを回るハビタブルプラネットがあったとすると、そのハビタブルプラネットが誕生して、時間が経つに連れて安定していく頃には常に昼側、常に夜側という世界になるんですね。果たしてそういう世界で植物って生育できるんでしょうか。

平本 光の問題もですし、昼の面の温度もかなり大きな問題ですよね?

成田 基本的には大気がちゃんとあれば、大気によって星の表面を熱が循環して極端な温度差は無くなるのですが、常に昼というのがどう影響するのかはこれからさらに研究が必要ですね。

平本 そういった研究の中で、もし生命がいる星や生命が住めるような星をいくつか見つけることが出来たとしたら、系外惑星を研究されている方はどういうアプローチをするんですか? それこそ人類が住むことも可能な星が見つかったとしたら。

成田 天文学の立場から言えることは、その惑星の半径とか質量はどれくらいですとか、大気に何が含まれているかとか、そういった情報は出すことは出来るんです。それを生物学とか化学とか色々な方と話し合って、この星には生命がいるかもしれない、ということは言うことは出来ます。ですがその先に関して、天文学の立場からはどこまで言えるんでしょうね。例えば表面に海があったり、植物があるかとかそういうことは、もしかしたら別の方法で言えるかもしれません。でもさらにその先は、天文学の範疇を軽く超えてしまっているのかもしれません(笑)。

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