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東京を巡る対談 月一更新

束芋(現代美術家)×平本正宏 対談 日常の中の「隠れた衝動」を引き出す

<いいものと悪いものを見ること>

平本 最近特に強く思うようになってきたんだけど。制作し始めると終わるまで他の作品を見ないっていうのが以前はずっと続いていたの。それはわざとじゃなくて、自然とそうなってしまっていたんだけど、でも最近、日々いいものや興味持ったものに接していた方がいい作品が生まれるなと思って。だから、締め切り間近とかは別だけど、それ以外のときはチャンスがあったら、映画とか舞台とか、他の人の音楽とかに接するようにしているんだよね。そういう、日常生活でいい刺激を受けることって結構大きいでしょ、美味しいものとかも含めて。

束芋 そうだね。あと、いいものはもちろんだけど、悪いものも見ておいた方がいいなと思った。舞台や映画など、招待して頂くこともあるんだけど、全部招待で観せていただくんじゃなくて、時々自分のお金を払って、舞台とかを観に行って、観賞後は思ったことを吐き出す、みたいなのは必要だなと思ってる。

その金額を払っただけの価値をそこに見いだせるかどうかということも、すごく重要でしょ。でも、それが「ご招待」だとその感覚が無くなっちゃうから。

平本 1万円のチケットとかなると、死ぬ気で選ぶでしょ(笑)。高価なものだから失敗して欲しくないし。それで、これなら絶対に面白いはずだって思ってチケットを買って、行って、本当に楽しいときもあるし、全然なときもある。それはもう自分の責任だから。

その感覚って、いいもの見て、いいと思えるところを見つけられるのも自分だし、ここが良くないと思うことも重要なことだなと。

束芋 重要。そこにちゃんと目がいかないと、自分の制作も客観性を欠いてくるんじゃないかなと思う。

平本
そうだよね。最近2つよかった映画があって1つは『クラウド・アトラス』っていうマトリックスの監督の最新作なんだけど、これは観に行ってよかった。これからの作曲に影響を与えてくれそうな感じで、この映画観に行ったあとで色々と考えたから。こういう時間を生んでくれるのがいいと思うんだよね。あとは、ジブリ美術館で見た『めいとこねこバス』(笑)。『となりのトトロ』が好きだから、もうこれは無条件に好きで。めいちゃんとねこバスの子供が旅するショートムービーなんだけど。

束芋 あはは。こねこのバスなの?(笑)

平本 そうそう。幼稚園児1人がやっと乗れる大きさのバスなの。

束芋 よかったんだー(笑)。ジブリ美術館も、ディズニーランドも、あそこまで作り込むっていうのは、もの作りの最高レベルな訳だよね。

平本 世界中に愛されるエンターテイメントで、ものすごい気配りをするでしょ。

束芋 スタッフの気配りもものすごいらしいから、そういうのにも触れてみたいなと思うこともある。

平本 それはいいと思う。でも、行ったらそんなことは考えずに楽しんじゃうけどね(笑)。

束芋 もともと私の場合は、寂れた遊園地とかにすごくワクワクする気持ちがあるから、ディズニーランドは違うと思っていたけど、行ったら楽しかったんだよね。

平本 そうだよね。最後になりましたが、東京駅のバスターミナルを選んだ理由は?

束芋 東京は、初めて来たのが就職活動のときで、京都から夜行バスに乗って東京駅に早朝着くの。朝時間をその辺のカフェでつぶし、時間がきたら試験を受けるために面接会場に向かう。私はものすごくデカイ、A2サイズのファイルでポートフォリオを作っちゃって。ファイルに、山ほど自分の作品とかを詰め込んで、資料だけじゃなくて、平面の作品は実物に近い大きさに刷ったものも入れたりして、そのものすごく重いポートフォリオを担いで就職活動していたの。

一生のうちでもあんなに頑張ったことは無いって言うくらい頑張ったね。そんなに頑張っても、何度も撃沈するわけですよ。1次通って、2次試験、3次試験って行くこともあったけど、夜行バスで行って面接を受けて、夜行バスで帰ってきたくらいに「合格です」と連絡が入って、2次試験は◯日後って言われたらまた夜行バス、明日だって言われたら、値段が高いけど仕方なく新幹線を使う。試験が連日に及んで、汚いビジネスホテルに泊まったこともあった。とにかく体力勝負で、そのなかで卒業制作「にっぽんの台所」の構想を考えていたの。京都に帰ったら卒業制作を進めつつ、次の就職試験のための課題をして……。

平本 今の生活と全然違うね。

束芋 全然違う。あの頃の報われない経験があったから、そのあとも何だってできるかなと思っていた。ほとんどの場合が報われるし。でも、やっぱり年齢を重ねるうちにあの体力勝負の動きは無理になっていった。それでも、あのときの経験はすごく大きくて、「東京」っていうとスタートはすごく辛い体験。広告会社を5社くらい受けたんだけど、ちょっといいところまでいっても最終的にはダメなわけ。そうしたら一発目で落としてよって思うくらい(笑)。お金も、時間も、体力も使えるだけ使って、ちょっと夢を持たせてもらったかと思ったら、結局落とされる。辛い時期だったから、東京は嫌いだと思っていたけど、そのあと東京に住むことになって、色々と人間関係もできていき、面白い場所になった。

いまは東京に住むことはあまり考えられないけど、それほどイヤな場所でもなくなった。京都というトンネルの入口を入って、東京側の出口が八重洲口だった。いまよりもっと汚かったけど。でも、一番惨めな時期を学生の間に経験できたことは良かったなと思う。そのときの経験は今も生かされていると思うし。

平本 なるほど、そのあと友達もできて東京が好きになったのは良かったよね。

束芋 そうだね。ここに何があって、どういう人たちがいるかって言うのがわかってくると怖さも無くなるし。自分で想像して、「怖いところだ」って思うのが一番怖さを感じさせたりするから。だから、嫌いなところには住んでみた方がいいなと思う。

平本 それは本当にそうかもしれないね。今日はありがとうございました!


束芋 Tabaimo

1975年兵庫県生まれ。
1999年、京都造形芸術大学卒業制作として発表したアニメーションを用いたインスタレーション作品「にっぽんの台所」がキリン・コンテンポラリー・アワード最優秀作品賞受賞。以後2001年第1回横浜トリエンナーレ、02年サンパウロ・ビエンナーレ、06年、シドニー・ビエンナーレ等数々の国際展に出品。
主な個展に「ヨロヨロン」(2006/原美術館)「断面の世代」(2009/横浜美術館、2010/国立国際美術館)。現代美術家。
2011年ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家へ選出され、新作「てれこスープ」(2011)を日本館で発表。
長野県在住。

<今後の予定>
2013年10月にダンサー・森下真樹さんとのコラボレーション作品「錆からでた実」を青山円形劇場にて公演。
2014年7月にはオーストラリアMCAシドニーにて大規模個展を予定。

撮影:moco http://www.moco-photo.com/

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