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東京を巡る対談 月一更新

束芋(現代美術家)×平本正宏 対談 日常の中の「隠れた衝動」を引き出す

<ひとつのモチーフを自由に使いこなす>

束芋 そうそう。自分にとってはそのモチーフが重要だからこそ使っているわけで、そのモチーフの持っている意味を変えなくても他の作品に応用できる。とにかくその作品にとって何が必要かと考えたとき、過去に作ったモチーフを使うべきであれば、臆せず使っていこうって気になってきたのが2009年以降かな。

それまではもう、新作は全部描き下ろしじゃなきゃっていう感じだったけど、段々自分のペースとか自分の考え方が固まってくると、多分、平本君が音符を使うみたいな感じ、楽器を選ぶ感じで、1つの自分のパターンとして同じモチーフを使うようになれた。1つのモチーフを描いている時間は相当かけているので、既に描き上げたそれを使うことで、短い期間に、全て新しい絵を描くよりもずっとクオリティの高いものができる。

例えば、一番はじめにアブクを使ったときに描いた絵を、更にアブクを付け足して山盛りにして、その後使ったりもしているんだよね。そのアブクは一個一個描いているのだけど、繰り返し使うことでどんどん泡は増えていったりとかして。そうするとイメージは違って見えるし、ある意味ビジュアル的なクオリティはどんどん上がっていく。そういうことって今じゃスゴくありだなと思うし、また、自分のモチーフの持っている意味を強めていくこともできるし。

平本 それはすごくわかるな。作曲のときも、メロディが有る無しに関係なく、どういう音を使って、その曲を構成するかを考えるのね。だから、作曲作業は、どういう音を作るかがとても重要になってくるんだけど。それで、いい音ができると、その音は1曲だけじゃなくて、他の曲を作るときにもガンガン使えるの。音自体に強い個性があると、応用も利くし、他の曲で使用していく音にもっといい音に変化するときもあったり。

あと、音って、長く鳴らすか、一瞬だけ鳴らすか、強く鳴らすか、弱く鳴らすか、はたまたその音を響かせるかで、全然効果が変わるから、いい音を沢山作りたいなと思ってる。僕が、先に言ったような自分がしたことの無い新しいことをしたいと思うときは大体、この音作りを一新したいと思う。

束芋 そうそう、同じだと思う。いま3つのプロジェクトを同時並行しているけど、あまり同時期に同じモチーフは使いたくないなっていう気持ちは漠然とある。だから、この作品にとって過去に描いたモチーフを使うのであれば、絶対にこれは外せないっていうものをあてがう形になるのだけど、そうすることでかなり厳選されていく。アニメーションって書く量が半端無いでしょ、でも、もし1つだけのプロジェクトが進行しているあれば、今まで描いたモチーフだけを駆使して全部作っちゃうことは可能だと思う。3つ並行してやることで、新しく描かなくちゃいけない絵もやっぱり沢山出てきて、それによって、自分に課すハードルがスゴく高いものになって行くから、3つ並行してやることで、自分自身のモチベーションは自ずと上がっていってると思う。

平本 じゃあ今年はその3つで埋まっちゃう感じ?

束芋 そう。本当に完成させられるのかっていう不安はまだあるのだけど(笑)。

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