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東京を巡る対談 月一更新

束芋(現代美術家)×平本正宏 対談 日常の中の「隠れた衝動」を引き出す

<自然と変化がやってくる年齢>

平本 そうだね。年齢によっては別の答えを出しちゃうかもしれないよね。

束芋 そう。多分そうだったとしたら焦ると思う。でも、自分にとっては早い時期に来たから良かった。一度そういう経験をしていれば、今後また同じピンチが来たとしても、2度目だったら対応していけるかな。

多分あの時は、変わらなくちゃいけない時期でもあったんだと思う。ある程度自分で納得する活動をして来られて、こういう活動の中で、手の届く範囲で何かをするっていう気持ちにはなれなかったから、どこかで変化があったらいいな、とも思っていた。それで、マイナスには捉えずにいられたかな。元々変わることを期待していたから。

平本 変化したい時期ってなんかあるよね。なにか今までとは違ったものに出会えないかなと思う時期が。

僕が初めて作曲家として仕事したのが2003年の20歳のときなんだけど。金森穣さんっていうコンテンポラリーダンスの振付家の方がいて、その人の作品の音楽を作るのが初めての仕事だった。そこから締め切りがあって、それまでに曲を仕上げるという生活が始まるんだけど、そういうことを繰り返していると、自分がとても飽きっぽいことに気づいて。

なんというか、1回沢山の曲、それこそ全部で60分くらい曲を書いたとすると、次はそれを否定するようなことをしたくなるの。そういう性分なんだと思うんだけど(笑)。だから1つ大きな作品ができると、すぐに全く違うアイディアを考えて、それで作曲する。もちろんできた作品を否定したりはしないし、どの作品もそのとき最大限やったものだけど、いまは今で全然違うものを作ろうとしている、っていうのが一番しっくり来るんだよ。

で、普段はアイディアがじゃんじゃん出てくるんだけど、2008年にどのアイディアもなんか面白く感じなくなっちゃって。以前別の人との対談でも話しているけど、半年くらい悶々としていた時期があったんだよね。

束芋 へえー。なんでそうなったの?

平本 そうだねえ、自分が発想するアイディアの範囲に飽きたっていうのが大きいかな。いままで次々とアイディアが思い浮かんでいたけど、そのアイディアって結構小さい世界なんじゃないかって思って。まだ若いんだし、ここらで想定していなかったことをしてみたいなと。

それで半年、9カ月くらい悶々と過ごして、2009年の3月にいままでやったことの無い方法で作曲して、すこしそこから脱した感があったかな。

束芋 その方法ってどんなの?

平本 簡単に言うと、いままで自分が「この方法は自分はしない」と決めつけていた方法で作曲することだったの。それまではさっきも話した通り、作曲する上でコンピューターにそれほど大きな役割を担わせてなかったんだけど、このときは完全にコンピューター無しでは作り出せませんっていう曲を敢えて作ってみた。

そうしたら、結構発見があるんだよね。手法的なこともそうだし、作り出した音についても。ここは自分はわかっているとか、知っているから手を出していないと決めつけていることって案外わかっていなくて、実際に触れてみると結構大きなことを教えてくれたりするんだと思ったり。それで、そこからはまた色々と面白いアイディア出て来て、アルバムも2枚リリースしたんだけど。

でも、また最近飽きて来てしまって、さてどうしようというところなんだけどね(笑)。8、9月までに1時間くらいの曲を作らなきゃなのに。

束芋 でも、平本君の場合、時間が経てば必ず来る問題なんだろうね。で、模索しながら解決策を見いだして制作していくっていう。

平本 そうだね。僕もそう思う。

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