〈私が日本で一番ホドロフスキーに詳しいはず!?〉
林 あるとき、字幕制作会社から字幕監修の依頼が来たんです。作品名を聞いたら「エル・トポ」で!
平本 それは嬉しい偶然ですね、何か運命的なものを感じる。以前からホドロフスキー作品の仕事をしたいと営業されていたわけではなくですか?
林 アピールしていた方面とは別の所から、ひょんな感じで来ました。
平本 字幕監修の仕事というのは字幕とはまた違うのですか?
林 本来の字幕監修というのは、専門的な内容の場合、その筋の専門家の方に確認してもらうことを言うんですが、この作品の場合は最初に日本で公開されたときは英語に吹き替えているバージョンだったんですね。ですが、このときは本来のスペイン語版を公開しようとしていました。ちなみにスペイン語版では、吹き替えで男性の役にあえて女性の声をあててたりと、割とアヴァンギャルドな試みをやってます。
この「エル・トポ」のときの私の仕事は、以前公開されたときについていた英語版の字幕が、そのとき公開予定のスペイン語版と合っているかどうか確認する作業でした。実は、作業していくと結構字幕を直した方がいいところはあったんですけど、結果的に入れた指摘はあまり反映されませんでした(笑)
そのあと、2011年にもハピネットからボックスセットが出たんですが、そのときは同じ制作会社からオーディオコメンタリーの字幕の依頼がありました。担当者から「どれをやりたいですか?」と聞かれたときに「全部やりたいです!」と即答して、それで全部訳しました。
その中に”Constellation Jodorowsky”というドキュメンタリーがあるんですが、サイコマジックを実践している場面が出てきます。あまりにもやる気を出したので、普段はやらないチャプターのタイトルまで訳させてくれましたよ。オーディオコメンタリーで話していることも、だいたい以前に本で読んだことのあるものだったので、「はいはい、あれね!」みたいな感じでサクサク進みました(笑)
あるときアップリンクが「リアリティのダンス」の日本での配給を買ったとツイッターで知りました。「もうこれは勝負するときだ!」と。映像翻訳者に限定すればさすがに私が日本で一番ホドロフスキーに詳しいといっても間違いはないだろうと思ってアップリンクにメールをしたんです。
平本 アップリンクとはそれまでに翻訳のお仕事をしていたんですか?
林 それまで取引はなかったですね。本の「リアリティのダンス」にも書いてありますけど、週に一度パリのカフェでホドロフスキーがタロットを読んでいたんです。そこに行けば会えると思って、2007年に行ってみました。ちなみに、リーディングしてもらえる人は、くじ引きで決まります。私は外れてしまったんですけど、セッションは見てもいいと言われて。それで観てもらう人が入れ替わるタイミングで、あなたの本を日本で訳したいという旨の手紙を渡しました。
アップリンクには、このときのエピソードも添えて、日本で一番ホドロフスキーを知っている映像翻訳者で、彼にも会ったことがあることをアピールしました。その甲斐あって「リアリティのダンス」に字幕をつけることができたのです。
平本 今ホドロフスキーはかなり高齢ですが、お元気なんですよね?
林 前作「リアリティのダンス」の公開に合わせて来日したのですが、ドミューンや舞台あいさつで人前に出ているときは背筋も伸びてるし目の輝きが違いましたけど、控え室にいるとすごくちっちゃくなってうつらうつらしていたんです。疲れてたんでしょうね。実際「休ませてあげて~」っていうくらいスケジュールがみっちりでしたから。今回の「エンドレス・ポエトリー」公開の際は、前回で疲れてしまったようで、息子のアダンが来日しました。
平本 でも既に次回作は決まっているんですよね?
林 一応パリからメキシコへ行って「エル・トポ」を撮るまでのことを映画にすると聞いてます。最初は5作くらいになると言われていたんですよ。(注:対談後、実施されていたクラウドファンディングによると次回作は「サイコマジック」でプロの役者は使わないそう)
平本 撮影ももう始まっているのですか?
林 撮影はまだ始まっていないですね。でも台本はもう上がっているみたいですよ。原作を読むとわかるんですけど、アンドレ・ブルトンとのやりとりが面白いからあのくだりは絶対に見たいですね。