〈異文化や言語への対応は自我をなくすことが順応の鍵〉
平本 スペイン語をお仕事で使われいるわけですが、スペイン語という言語を語学としてはどう思われていますか?
林 日本人にとって発音しやすい言語だと思いますけど、ほかのラテン語、フランス語と同じように文法はめんどくさいかもしれないですね。スペイン語は使える国が多いのがいいところなんですけど、国ごとに話法や語彙が違ったり、同じ単語が別の意味だったりする落とし穴もあります。スペインのスペイン語しか知らなかった頃は話すときに迷いがなかったんですけど、中南米のスペイン語を知って以降は相手の国籍によって「この場合はどの単語を使うんだっけ?」みたいに迷うことが増えました。
平本 女性名詞とか男性名詞とか、活用形の複雑さとか、文法は日本語より大変そうですね。
そういえば、僕の弟がフランス語をやっていて大学のときにフランスに留学していたんです。彼曰く、フランス語はいいけど、フランス人はなかなか合わない人もいると話していましたが(笑)、スペイン人に対してはどうですか?
林 私も確かに、「もうやだ、この人たち」と考えていたときがありました。なんで客が列をなして並んでいるのに、係りの人は仕事をしないで仲間同士で喋ってばかりいるの。喋ってもいいけどせめて手も動かして、って思ったり(笑)
平本 人種、文化が違うと自分の中に絶対に葛藤が起きてしまいますよね。
林 文化が違う相手と接するとき、特に若い頃はナメられたらダメだと思って、常に自分の気が張っていたんです。だけど、そのぶん相手からの跳ね返りも強い(笑) あるとき自分の中で”こうじゃなきゃだめ”という信念みたいなものをなくしたら結構順応できたんですよね。その気の張りがなくなるとき、ものごとがスムーズに動くのかもしれません。
平本 それはわかります。作曲の依頼を受けたとき、自分の中でこういうものが作りたいんだという意思が強すぎると、結構面白くないものが、想像していたより普通のものができることの方が多いです。むしろ、提案に柔軟でいると、思いがけず普段の自分では作らないような曲を作れることが多いです。
林 あと、やはり加齢とともに対応しやすくなりましたね。チリに行ったときに周りの人にすごく親切にしてもらったんですけど、後から駐在してる人に、チリ人は基本的にすごく愛想が良いけれど裏表があると教えられました。だけど、裏表があったとしても会ったときの印象が良かったならそれでいいじゃん、と柔軟に受け入れている自分がいました。
平本 ところで、肩書に翻訳者だけでなく、「世界ワーカー」と書かれていたのですが、こちらはどのようなことをしているんですか?
林 これは年に3カ月ぐらいだけ世界のどこかで働きたいという願望を先取りした系の肩書です。きっかけは4年前にアルゼンチンに3週間ほど行ったことです。Airbnbやカウチサーフィンで泊めてくれた家の人たちと一緒に巻き寿司を作ったり、ライブを見に行ったりするうちに、こんなふうに年に一度、一カ月ぐらい外国旅行ではない、ふつうの暮らしをしたいと思いました。
それには先立つものが要りますよね? それを現地調達できないかなというのが最初の発想です。
平本 それは僕もしてみたいです。もちろん、行った先では作曲仕事をして。
林 いいな~。音楽のように世界のどこででも通用する技を持ってる人が心底羨ましい。アルゼンチンに行った翌年にたまたま「エンドレス・ポエトリー」の撮影の通訳のオファーが来て、結局1カ月でクビになるんですけど(笑)
そのときに現地の人と組んで働くと、その国のことがさらによく分かることに気づいて、こういう体験を増やしたいと思いました。なので、外国での仕事のオファーは随時募集しています。
平本 もういっそこのサイトを募集窓口にしましょうか? ご連絡はこちらまでという感じで(笑)
世界ワーカーとしては、今後のご予定はあるのですか?
林 具体的な予定はないんですが、海外で通用するスキルを身に付けたいなと思って、今年から月に1度、巻き寿司の自主トレをしています(笑) バスキングを拡大解釈したゲリラ的なワークショップができたらおもしろいかと。さすがに路上では無理だと思うんで、友人の家を借りたりすることになると思いますけど。そういうゲリラ的なものだけじゃなくて、ちゃんとしたビザも出るプロジェクトにも参加したいので、案件をお持ちの方はぜひTekna TOKYOまで(笑)
平本 皆様、ご連絡お待ちしております(笑)