〈もっとメラメラしたいからどんどん「無茶ぶり」して欲しい〉
林 ホドロフスキーのことは、もう好き好き好き好きって言っているうちに願いが叶ったパターンです。
平本 それこそ大学生のときから続いているわけですもんね。
林 大学時代に映画を見たこともですが、2002年に彼の本で再会したときに「うわっ!」ってなってから、今まで来ている感じです。ですが撮影にまで参加した「エンドレス・ポエトリー」の公開が終わったあと、老後というか余生みたいな感じになってしまって、燃え尽き症候群とも違うんだけど…。
翻訳者になったときに自分が仕事をしたいと思っていた監督が何人かいて、ホドロフスキー、ルイス・ブニュエル、アルモドバル、あとハビエル・フェセルの作品をやりたくて。ハビエル・フェセルとの仕事は意外とすぐに来たんです。彼の「モルタデロとフィレモン」というのは実質私の劇場デビュー作で2003年くらい。(日本公開は2006年)
今のところアルモドバルだけ叶っていないんですよね。特典は担当したんですけど。ただ、すでに私自身がアルモドバルに対して興味を失っているんですよ。
平本 なるほど、ちなみにいつの作品がお好きでしたか?
林 初期ですね。「欲望の法則」とか「神経衰弱ぎりぎりの女たち」とか。ブニュエルは亡くなっていますけどボックスセットで出来ましたし、ホドロフスキーもできたし、みんな叶っちゃった(笑)当面の目標が叶ったんで、次の目標を見失ってるというか、今の自分に飽きてるというか…。
平本 かなりのところまで行き着いた感じなのでしょうね。僕はそこまで大きい到達はまだ味わったことがありませんが、熱中してある手法や音色を使った作曲をして、作品をいくつか完成させたら、途端にそこへの興味を失うということは何度かありましたが、でもかんなさんのはもっともっと大きい印象です。
それらの目標にしていた仕事をすることができたからこそ、その先にある、さらにやりたいことに気づいたということもなかったんですか?
林 何でしょうね。何かとても大きな目標を立てられることはできると思うんですけど、具体的な目の前の目標みたいのがあった方が私は頑張れるタイプなんですよ。漠然としたものを目指すのは難しくて、そんな現状をなんとかしたいというのがあります(笑)
平本 なるほど、いま何か新しい刺激が欲しいということですね(笑)
林 そうなんです。ずっと同じことをやっていると、飽きてきちゃうんですよね。慣れてくると、この言葉はこう訳すみたいな手癖でできる部分が出てくる。だから、そういうのを壊したいというか、もう少し違う何か、メラメラ燃えるものが欲しいと思って色々な試行錯誤をしてます。その中でインターネットラジオを2年前のクリスマスくらいから始めてみたり、小池博史さんのスロー・ムーブメントのワークショップに参加してみたり。
平本 そうしているなかで、今何かメラメラされるものはありますか?
林 仕事に関してはまだあんまりメラってないですね。今は自分の新しい表現方法を探しているのかなと思います。”表現”というと、発表するのが前提じゃないですか。そうではなくて、結果的に発表はしてもいいと思うんですけど、発表するのが前提ではない表現を探してみたいと感じています。自分というたった一人だけのための表現みたいなものかな。なので今年は踊りを習おうと思っているんです。タンゴを!
平本 タンゴですか!(笑)今までに習ったことはあるんですか?
林 以前、野方の公民館でやっているダンスサークルみたいなのに入っていてたんですけど、派遣仕事の帯の関係でやめたんです。また始めようかなと。あと、見つける手がかりとして人からの要望というか提案にはなるべく応えようかなと思っています。
平本 この対談の企画もそうですね。お願いしたら2分後にオーケーの返事を頂いたときにはビックリしました(笑)内容は読んでないけど、やります! とおっしゃって頂き、これはこちらもきちんとしないと、と逆に背筋が伸びたのを覚えています。
林 私自身、もともと自分からやりたいことが出てくるタイプなんですよ。やりたいとなったらやらないでいるほうが難しい。人から「あなたこれやってみない?」ということに対しても、少々無茶ぶりもやるつもりだったんですけど、誰も無茶ぶってくれない(笑)
平本 ははは(笑) 確かに無茶ぶりというのは人との出会いですよね。僕も結構それについては思います。仕事の内容によっては、なんでこの仕事が僕のところに来たんだろうと思うものもあったりするのですが、依頼主が平本に頼もうと思ったということは、何か可能性があるわけですよね、その依頼主がこいつならなんかやってくれるんじゃないかという期待が。だから、この無茶ぶりは結構いい出会いな気がして、僕も基本受けています。そして、無茶ぶって欲しいなといつも思ってもいます。
だから、そのかんなさんの無茶ぶって欲しそうな感覚はわかりますね(笑)
林 でも、案外みんな言ってこないんですよね。
平本 これこそタイミングもありますよね。でもかんなさん、結構無茶ぶりされそうな印象がします(笑)それに応えてくれそうなイメージももちろん。
林 言ってくれればやると思うんです。ただ、みんなもしかしたら、私は言われなくても勝手に無茶すると思っているのかも(笑)
平本 勝手に無茶ぶる(笑)なんか面白いです。
いまは、去年からのその余生みたいな状態はもちなおしてきていますか?
林 うーん、自分の中ではいろいろくすぶってはいるんですけど、振り返ってみると結構いろいろやったと思います。たぶん、あまり相性が良くないクライアントとの仕事を長期でやったので、それがストレスになっていたのかな。
平本 そういうストレスは影響大きそうですね。
林 フリーで仕事をしていると、好きじゃない人とは仕事をしない自由はあっていいのかなって、ははは(笑)
平本 そうですね、一理あるかもしれませんね。
林 仕事自体に嫌なものってないんですよ。嫌なのって大体人なんです。だからふられた仕事はどんなことでもやりたいなと思います。
平本 あ、そうですね、嫌な仕事っていうのはそういえば無い気がします。担当者が対応が悪いとか、連絡が遅いとか、そういう人の問題で嫌だなと思うことはあっても、仕事の内容そのものに対する不満はほとんど抱いたことが無いなあと僕もいま思いました。